2007年4月

030
ユダの福音書を追え ハーバート・クロスニー
029
日本テレビとCIA 有馬 哲夫
028
心にナイフをしのばせて 奥野 修司
027
その日の前に 重松 清
026
私が語りはじめた彼は 三浦 しをん
025
オリンピア 沢木 耕太朗
024
風が強く吹いている 三浦 しをん
023
ダナエ 藤原 伊織
022
酔いがさめたら、うちに帰ろう 鴨志田 穣



No.030 2007/4/29
ユダの福音書を追え
ユダの福音書を追え
ハーバート・クロスニー


1700年前の「ユダの福音書」の写本が発見され復元された。そこには、ユダは裏切り者ではなくイエスの真の理解者であったと書かれている。そうなのか?!
とはいうものの、私はキリスト教についてはほとんど何も知らない。聖書も読んだことがないので、その重要性は分からないが、これまでの歴史を覆すとうふれ込みだったので、期待していた。がこの本は、「ユダの福音書に何が書かれていたか」ではなくて、その歴史的な発見を追ったノンフィクションだった。おいおい、なんだそうなのか。紛らわしい。
ハーバート・クロスニーの書き方は、まるで冒険小説のようだ。「ユダの福音書」が転々として、次々と災難にあって、最後は奇跡的に助かる。ハッピーエンド。
この本で興味深かったのは、歴史的遺産は誰のものか?という問いだ。エジプトでは、遺産が征服者に次々と略奪されている。近年では、法律によって厳しく国外への持ち出しが禁止されている。遺産を持ち出された国が、博物館や美術館を訴えるということがずいぶんあるようだ。

この本に感化されて、本棚でホコリをかぶっていた聖書を引っ張り出してみた。旧約と新約のセットの口語版聖書なのだが、ざっと眺めてみると、旧約はほとんど神話的な話が多く、日本の古事記に近いのではないかと思った。ヨブ記は、けっこう面白かった。
新訳はといえば、冒頭の4つの福音書がメインで、ペテロやマルコがイエスの教えを語る伝道書だった。この中では、イエスは先生と呼ばれたり、ラビと呼ばれている。ラビといえば、ユダヤ教の宣教師でしょう。キリスト教徒ユダヤ教の関係は? なぜユダヤ人は放浪の民となり世界中で嫌われてるのか? だんだん興味が湧いてきた。もう少しキリスト教関係の本を読んでみようか。

ユダの福音書 - Wikipedia
イスカリオテのユダ - Wikipedia
歴史を覆す大発見! 「ユダの福音書」が明かすイエス・キリストの...
ユダの福音書を追え -ナショナル ジオグラフィック 日本版
福音書 - Wikipedia


No.029 2007/4/25
日本テレビとCIA
日本テレビとCIA −発掘された「正力ファイル」
有馬 哲夫


日本初の民放である日本テレビは、CIAによるアジアの共産主義化防衛網のために、アメリカが資金援助して作られたという調査レポート。
有馬は、アメリカの国立公文書館に「正力ファイル」として保存されていた資料を発掘。
第二次大戦後、ヨーロッパやアジアの国家が次々と共産化していき、当時アメリカがいかにこれを恐れていたかよく分かる。けれど、今では、共産国家も次々と破綻し、テレビは娯楽の中心となり、共産化阻止のための情報操作の道具なんて誰も思わない。かといって、資本主義が勝利したのではなく、共産主義国家が一党独裁と個人崇拝によって、自滅したに過ぎないのだが。

本の冒頭から、日本テレビとCIA種明かしがされていて、ワクワクするようなことはなかった。有馬は大学教授で作家ではない。そのせいか、読者をジワジワ引き込んで、読ませるテクはないようだ。
NHKテレビ放送は、日テレに半年先だって放送を開始していたが、国営放送であることと、社会主義思想の社員が多かったため、CIAは番組内容をコントロールしにくいと判断し、民放の日テレに共産主義化防衛網の役割を担わそうとしたようだ。

もともと正力松太郎はアヤシイ人物で、警察官僚だった正力のために、どれほどの人間が逮捕され死んでいったことか。けれど、正力の評伝的なことはまったくこの本に書かれていない。これはどうしたことか。1/3ほど読んであとは流して読んだ。

有馬哲夫 -Wikipedia
早稲田大学社会科学部 有馬哲夫ゼミ公式ホームページ
正力松太郎 -Wikipedia
日本テレビとCIA -新潮社


No.028 2007/4/23
心にナイフをしのばせて
心にナイフをしのばせて
奥野 修司


1969年に起きた16才の少年によるクラスメイトの首切り殺人事件の被害者家族のその後を追ったノンフィクション。少年が首を切り落とすという行為は、酒鬼薔薇事件に近い。
犯人の少年Aは、少年法の保護により3年半ほどで何事もなかったように社会復帰。しかし、長男を突然悲惨な事件で失った家族の悲しみはあまりに深い。犯人は法によりあつく保護されているが、逆に犯罪被害者は、あまりに法の保護から遠い。そういえば、去年読んだ「犯罪被害者の声が聞こえますか」は、こんな状況を打ち破ろうとした人の本だった。
この被害者家族、父親・母親・妹のその後の人生は過酷だった。ひたすら耐える父親、発狂寸前となった母親、狭間で行き場のない妹。
50才近くなった妹が、亡くなった父親について語る。
・・・
弔問にやってきた親戚の一人は、酒を飲みながらこんなことを言った。
「お父さんは、他人のために生きてきたようなものだね。お父さんの人生って、いったい何だったんだろう。自分のために生きられない人生ってかわいそうだよな」
それを聞いたとき、私はすごく悔しかった。
戦争中、餓死寸前の小笠原諸島の父島から、九死に一生を得て帰ってみれば、家は流され、父親は行方しれず、結婚でようやく幸せをつかんだと思ったら今度は息子を殺され、その後は母や私のために働きづめに働いた。そして、ようやく生活が安定したと思ったらガンでこの世を去ってしまった。たしかに端から見ればかわいそうな人生だったかもしれない。でもそうじゃないんだ、と私は叫びたかった。
「あんたにはわからないけど、父はわたしたちに毅然とした生き方を見せてくれたんだ。そういう背中を子供に見せてくれる親ってどんなにすばらしいか。口では簡単に言えるけど、あんtにそういう生き様を子供に見せられるか。死ぬ瞬間まで、そんな背中を見せてくれたお父さんに、私は言葉ではい言い尽くせないほど感謝してるんだ」・・・

このお父さんはほんとうにタフだ。こういうお父さんは母や子供には理想だが、本人にとって辛いだろう。私は、ちょっとなれそうにない。
犯人の少年Aは、3年半で社会復帰し、姓名を変え弁護士になって成功した。が、自分のおこした事件を家族に詫びることはとうとうなかった。家族は、本のタイトルのように「心にナイフをしのばせて」耐えるしかなかった。
この本を読むと、先週読んだ「私が語りはじめた彼は」は、あまりに作り物過ぎて薄っぺらな紙のように思えてきた。
本の表紙は、リアルでホラー小説みたいだ。逆に、もっと明るい抽象的なイラストにした方がよかったと思うが。

奥野修司 -本ようり堂


No.027 2007/4/20
その日の前に
その日の前に
重松 清


準備中

重松清 -Wikipedia


No.026 2007/4/18
私が語りはじめた彼は
私が語りはじめた彼は
三浦 しをん


風が強く吹いているがメチャクチャおもしろかったので、もう一冊読んだ。期待とは裏腹に、純文学チックな小説だった。一人の男を巡る女性の愛憎や、息子や娘の気持ちを短編小説でまとめている。
「私が語りはじめた彼は」の「彼」は、すぐれた古典文学者でこの小説の陰の主役(なぜなら彼の章はない)なのだが、容姿が「肝臓を悪くしたタヌキ」なのだそうだ。そんな男が、これほど女性にもてるとは思えないが・・。
それはまぁいいとして、作者が何を言いたいのかよく分からない。嫉妬や憎悪は恋愛や家族関係につきものであり、ことさら純文学チックに書いても、所詮「肝臓を悪くしたタヌキ顔」をした大学教授に戻ってしまうと何やら興ざめだ。これが光源氏みたいな男だったら、ハーレクインみたいになってしまうしね〜。

巻末に、「私が語りはじめた彼は」のタイトル出典が載っていた。
この男 つまり私が語りはじめた彼は 年若にして父を殺した
その秋 母親は美しく発狂した
  田村隆一「腐刻画」
なんだ、そういうことだったのか。三浦しをんは、この詩に感化されてこの小説を書いたようだ。けれど、この詩って、なんだか直接的で生々しくて、ちっとも美しないような気がするが。

WEB本の雑誌 -課題図書


No.025 2007/4/16
オリンピア
オリンピア
沢木 耕太朗


沢木耕太朗は、「檀」以来になるだろうか。図書館の書架をブラブラしていて、偶然この本が目にとまった。発行は1998年なので10年も前に出版されている本だ。かつては(何十年も前だが)、沢木耕太朗の新刊が出るや速攻で買って読んでいた沢木ファンだったのに。

オリンピアは、1936年に行われた第11回ベルリンオリンピックをテーマにしている。沢木耕太朗は、スポーツノンフィクションはお得意の分野だ。ましてやオリンピックといえばアマチュアスポーツの究極。膨大なドラマが埋もれている。なので、沢木耕太朗が書かなくても、プロが書けばそこそこの本にはなるだろう。沢木もそのあたりが気になったらしく、書くきっかけをつかみかねていたと自ら書いている。
引き金になったのは、レニ・リーフェンシュタール。このベルリンオリンピックを映画に撮った女性監督だ。この時、レニは36才。この映画は「民族の祭典 オリンピア」というタイトル公開され、その映像美で世界の絶賛を浴びたらしい。私はオリンピアを見ていない。なんとか見る手段はないものか。

オリンピアは、冒頭、レニと沢木の緊張感のみなぎるインタビューから始まる。この時、レニはすでに92才。それでもかくしゃくとしており、いまだに映画を撮っているそうだ。
以後は、ベルリンオリンピックで活躍した日本人選手のドラマが続く。ここからは、ありふれたスポーツノンフィクションになって、ちょっとがっかり。ラストの章で、再びレニとのインタビューに戻る。この章もいい。ということは、オリンピアは、レニとのインタビューだけを軸に展開した方が、もっと素晴らしい本になったのではないだろうか。と思うとちょっと残念な気がする。
レニ・リーフェンシュタールは、先年、102才で大往生したそうだ。

沢木耕太朗 Wikipedia
追悼 レニ・リーフェンシュタール
民族の祭典
黒田信一 −めったくたガイド


No.024 2007/4/13
風が強く吹いている
風が強く吹いている
三浦 しをん


三浦しをんなんて作家を知らなかったが、この本はおもしろいと評判が高かったのので読んだ。電車の中でラストとのクライマックスとなったが、不覚にも涙が出た。まぁ、素人集団がいきなり、箱根に出場できるほど、現実は甘くはないのだろうが、そこは小説。各人にドラマがおもしろかった。
読んでる感じで、三浦しをんは男性だと思っていたら、なんと女性だった。これにはびっくり。男心が分かるんじゃないか、三浦しをんは。女なのに。これは珍しいかも。

三浦しをん Wikipedia
作家の読書道 −三浦しをん
三浦しをん批判


No.023 2007/4/9
ダナエ
ダナエ
藤原 伊織


ギリシャ神話 Wikipedia
ダナエの絵画 Wikipedia


No.022 2007/4/4
酔いがさめたら、うちに帰ろう
酔いがさめたら、うちに帰ろう
鴨志田 穣


巻末に、「これフィクションです」と書いてあって、なぁ〜んだと思ってがっくりしたが、本当に癌で死んだと知って○に格上げ。しかし、死線をさまよっているというのに、この飄々とした文章はすごいね。アル中になったのは、戦争症候群なのかな〜。戦場を飛び歩いて、悲惨な現状を嫌というほど見て、日本に戻ったらぬるま湯状態で気が抜けてしまったのだろうか。

鴨志田穣 Wikipedia
西原理恵子 Wikipedia
鴨志田穣 訃報 毎日新聞
鴨志田穣最後の言葉 YouTube